NICE FLIGHT!(ナイスフライト)ドラマ第8話 航空専門家による考察1 

パイロット志望者お待ちかねのテレビドラマ「NICE FLIGHT!(ナイスフライト)」が、2022年7月22日(金)からテレビ朝日系列でスタート、ドラマもあっという間の最終回になってしまいました。

9月9日(金)は第八話(最終話)が放送。機種移行訓練の最後のステージ、ラインOJTの最中に、副操縦士の倉田粋(玉森裕太)が操縦を担当しているJAL225(羽田発関西行)において、関西空港着陸直前に、慣れないチャーター機による滑走路誤進入が発生。

機長と管制官がほぼ同時に気がつき、倉田粋(玉森裕太)がゴーアラウンド(着陸復行)操作を行い、危険を回避。

着陸をやり直して無事に関西へ到着します。

イレギュラー運航にあたるため、到着後すぐに聞き取り調査が行われ、倉田粋(玉森裕太)の操縦には何ら問題ないことが確認されるも、倉田粋は飛行機慣れをしていない両親もお客様として搭乗していた最中に起きたこのトラブルで、たくさんの命を預かるということに急に怖くなってしまい、恋人である管制官の渋谷真夢(中村アン)との約束も果たせないまま、訓練再開に前向きになれない日々が続く。

そんな倉田粋にとって、いよいよ天に見離されたか?といった、ツイていない展開。

波乱の最終回となりましたが、機長の村井雄太郎(丸山智己)「村井キャプテン」から激励を受け、また渋谷真夢(中村アン)から、ふたりが空に憧れ歩み出したあの日のことを思い出させてもらい、倉田粋がずっと目指してきた国際線パイロットの夢を叶えるために再起を誓うのです。

渋谷真夢(中村アン)との恋の行方にも注目!

今回も解説箇所が多いため、2部構成にてお届けいたします!

このブログでは、ドラマをご覧になられたパイロット志望者の方が興奮したであろう場面や、その詳細解説、実際の現場のお話などを解説する「パイロット目線 感想コラム」です。

一部ネタバレ等が含まれておりますため、本ドラマをご覧いただいてから、コラムをご覧いただくことをおすすめします。

前回(第七話)の滑走路誤進入(重大インシデント)から解説!

滑走路誤進入(Runway Incursion)は、重大事故に繋がる可能性が高く、また発生頻度も多いことから、世界中で、管制官もパイロットも、常に気をつけていることの一つです。

では、第七話の管制官との通話シーンから振り返ってみましょう。

誤進入機「MR0317, roger. Runway 24R taxi to holding point via R, S1, J3, Y, B1」
管制官 「JAL225 Kansai Tower, runway 24R cleared to land wind 220 at 10」
JAL225 「JAL225, runway 24R cleared to land」
管制官 「MR0317, Contact Kansai Tower 118.05」
誤進入機「MR0317, roger. Contact Kansai Tower.」
管制官 「JAL225, go around. Execute missed approach due to traffic entering runway」

という流れとなっていますが、まず関西国際空港の場合には、管制官と言っても、グランド担当とタワー担当に分かれており、全て同じ管制官ではありません。

またJAL225はMR0317の交信は、違う周波数で行われているため、聞こえていないと思います。

いずれにせよ、パイロット志望者皆様にとっても、息を呑む展開だったと思います。

タイミングが違っていれば、衝突して大勢が命を落としていてもおかしくない事態だったと思います。

余談ですが、この事態は、航空法施行規則第166条の4第2号に規定されている「他の航空機が使用中の滑走路への着陸の試み」に該当することから、航空重大インシデントになるはずです。

作中ではそこまで書かれておりませんが・・・

出典:AIS JAPAN

上記チャートは、国土交通省航空局 AIS JAPANにて公開されているものに、MR0317が指示された誘導路(地上滑走ルート)を色付けしたものです。

オレンジ色は、R誘導路。駐機していた場所に面している誘導路です。

MR0317はチャーター機という設定で、コールサイン(パイロット、管制官が無線でやり取りしているときに使う個々の名称)もエアラインのものではありませんでした。

また、見た感じ、小型のジェット機(FALCONのような・・・でも少し短い?)のようでした。

映像ではSPOT1〜7のあたりから出てきているのかな?と感じましたが、ボーディングブリッジを使わないゲートがSPOT1やSPOT3にありそうですね。詳細はよく分からず。ごめんなさい。

緑色は、R誘導路以降に指示されている誘導路、S1、J3、Y、B1です。

この緑色に沿って地上滑走し、Runway 24R手前のHolding Pointまで行くように指示されたものと思われます。

このHolding Pointとは、滑走路手前などに設定されている停止線のこと。

この停止線を超えて滑走路内に進入するためには、管制から「Runway 24R, Lineup and wait」や「Runway 24R,cleared for takeoff」の指示が必要です。

つまり、管制官から指示もなく、この停止線を超えてしまったことから、管制指示違反、そしてJAL225便が進入中の24R滑走路への誤進入、JAL225のゴーアラウンド(着陸進入時に、何らかの理由で着陸ができないとパイロットが判断して、着陸をやり直す)となっていくのです。

MR0317便(チャーター機) 誤進入の原因として考えられることは?

通常であれば、SPOT1〜7に近い滑走路である、Runway24Lへ行くように指示が出ると思いますが、作中にも説明があった通り、緊急のメンテナンスが入り、滑走路閉鎖中。

慣れないチャーター機であるMR0317便も、突然のRunway Changeで戸惑った可能性は考えられます。

慣れないとはいえ、到底許されない事態ではありますが、人間誰でも(どれだけ気をつけていても)ミスをすることから、日頃からの厳しい訓練や、今回のようなインシデント発生後に、徹底的な原因究明とその周知、そして全体的な再発防止策の実施が必要なのです。

MR0317便のパイロットは、管制官の指示に対して、何ら違和感なくReadback(復唱)出来ているように思えます。

つまり、想定とは違う滑走路ではあるが、チャート上では確認が出来ていて、管制官の指示も問題なく理解している、と考えられると思います。

では、どうして、地上滑走の最後、Holding Pointでの停止を逃してしまったのか?

ココから先は冨村の想像です・・・

チャート上では通るべき誘導路が分かっていたとしても、地上滑走中に曲がるポイントを間違えず、さらに、的確な方位(誘導路)に向けて曲がることは、実はとても難しかったりします。

道路と違って、分かりやすい目印とかないですからね。

特に慣れていない空港では、どうしてもスピードを下げたり、キョロキョロしながらの操縦になりがちです。

間違えてしまったら、車のようにバックする、なんてことも出来ませんので、なおさら慎重になりますし、分かりにくい誘導路は、パイロットにとってストレスになっていることも事実でしょう。

さらにパイロットは離陸前、離陸準備などにも追われています。

特に小型のチャーター機であれば、エアライン機よりも弾力的に動く必要もあるでしょうから、ケースバイケースですが、客室への気配りも大切なのではないかと思います。

チャートをご覧いただいた通り、ターミナル側にあるRunway 24Lは、並行した誘導路が3本もある、勿体無いほど立派な設備です。

しかし問題のRunway24Rは、誘導路が1本しかありません。従って、誘導路(B1)を曲がってすぐにHolding Point(停止線)があるのです。

人間は先入観など思い込みからミスをすることが多いです。これをバイアス(にかかる)と言います。

余裕のないMR0317のパイロットは、Runway 24Lと同じ感覚で曲がってしまい、まさかB1で左に曲がってすぐにHolding Pointがあるとは思っていなかったのではないでしょうか。

さらに、グランド担当(空港内の航空機または車両の移動に関する指示を担当)の管制官から、タワー担当(離陸や着陸の許可を担当)の管制官への引き継ぎタイミングが、ちょうどB1に左折するタイミングと重なってしまい、パイロットが管制に気を取られて、Holding Pointを見落とした可能性も考えられます。

普通に考えたら「ありえない!」と思ってしまうようなことでも、先入観だったり、ちょっとしたタイミングのずれから、ミスを誘発したりするのです。

滑走路誤進入(Runway Incursion)は恐ろしい結果を招くことも

着陸後、倉田粋(玉森裕太)の様子がおかしくなりました。

てっきり冨村は、過去にも同じような怖い経験でもしていて、フラッシュバックか?なんて思いましたが、そうではなかったですね。笑

フライト後、傷心の状態で倉田粋は実家の美容院に帰り、美容師をしている母、倉田たまき(宮地雅子)とこんな話をするのです。(第八話)

粋「あの日、大阪旅行のフライトでゴーアラウンドしたでしょ」
母「ゴーアラウンド?」
粋「着陸復行、着陸のやり直し」
母「あぁ、そんなこともあったわね」(意外そうな顔をする粋)
母「ほら、私飛行機に慣れていないでしょ、だから、ま、こんなこともあるのかなぁ?ってなくらいなもので。お父さんも寝てたし」
母「機内には不安そうな人もいたけど、CAさんもきちんと説明してくれたし、機長さんのアナウンスもあったから」
粋「今まで色々なトラブルがあったけど、俺、本当にツイてて、周りに助けてもらっているだけなんだよ。」
粋「人の命がかかっているんだって分かっていたつもりだけど、父さんと母さんが搭乗しているフライトであんなことがあって、誰かにとっての大切なひとを乗せているって思ったら、怖くなった」

お客様のこと、そしてそのお客様を待つ、大切な人たちのことを常に考えて操縦してきた倉田粋のことなので、もしかしたら、以下の様に想像をしてしまい、怖くなってしまったのも理解できます。

もし、誤進入してきた離陸機がBoeing777などの長距離国際線だったら・・・

そして、誤進入があと数十秒遅くて、自分の着陸進入と同じタイミングだったら・・・

想像に過ぎないかも知れません。でも、もしこれらが重なって発生していたら、双方合わせて、何百人という死傷者を出していた、大事故になっていたと思います。

第五話のコラム2にて解説しました通りで、長距離国際線の離陸機には、航空機全体の重量に対する割合で半分近い航空燃料が搭載されています。

Boeing777-300ERで、アメリカ東海岸や、ヨーロッパ方面の場合は約25万ポンド(ドラム缶約700本)の航空燃料になります。

それだけの可燃物と何百人の搭乗客を積んだ機体に衝突することを想像すれば、とてつもなく恐ろしいことなのではないでしょうか。

しかも、倉田粋は、今回のフライトに、粋の両親がお客様として搭乗しているのです・・・

実際に関西国際空港で発生した滑走路誤進入

同じ関西国際空港で、実際に、滑走路誤進入による重大インシデントが何度か発生しており、そのうち、2011年に発生した重大インシデントをご紹介します。

誤進入してしまったのは、ハワイアン航空のBoeing767。

ANAの貨物便(同じくBoeing767)が進入中にも関わらず、ハワイアン航空機が滑走路へ誤進入し、ANAがゴーアラウンドし、その後無事に着陸しています。

その時ハワイアン航空機は、滑走路の手前に待機するように管制官から言われていましたが、その頃の管制通話では「Hold Position」(その場で待機)を使用していました。

また、その少し前までは、現在の「Lineup and Wait」にあたる、「滑走路に進入し待機」を、「Taxi into Position and Hold」という言葉で表していました。

「Hold Position」と「Position and Hold」

同じ単語を使っていて似ていますが、全く指示内容は異なります。

インシデント発生後の聞き取り調査にて、ハワイアン航空機のパイロット(3人が乗っていた)は、全員が「Position and Hold」(滑走路内待機)と指示されたと思い込んでいたと話します。

そのような経緯もあって、間違えの元になりやすい管制通話を直していくことになり、翌年からは、滑走路手前待機を指示する時に「Hold Position」を使わず、現在の「Taxi to Holding Point of Runway 24R」のように指示する様に変更されました。

このように、パイロットも管制官も、ヒューマンエラーを少しでも減らすために、事故から学ぶ姿勢、安全に対する高い意識を持つことを大切に、普段から安全を守っているのです。

パイロットの師弟愛にも新しい時代到来か?アットホームな職場環境を作りたいJAL

女性機長の喜多見七海(吉瀬美智子)「喜多見キャプテン」に強く懇願されて、機長の村井雄太郎(丸山智己)「村井キャプテン」が倉田粋を呼び出します。

喜多見キャプテンも村井キャプテンも、本当に粋のことを大切に考えている、目頭が熱くなるほど、素晴らしい師弟愛を感じます。

パイロットの世界も世代が変わるたびに、雰囲気も変わってきているように感じます。

これからの時代、そんなまるで家族のような思いやりあふれる職場にしていきたいという、JALの決意をこの作品の節々から感じますね。

色々な意味で新しい時代を感じますし、JALやその他航空会社が望む優秀な人材を多く育てていきたいなと冨村は日々感じています。

以下、村井雄太郎(丸山智己)「村井キャプテン」と倉田粋(玉村裕太)の会話を振り返りましょう。

村井「倉田、空が怖いか?」
粋 「はい、パイロット失格です」
村井「俺も怖いよ」(意外そうな顔を見せる粋)
〜中略〜
村井「早く(グライダーではなく)大きな飛行機を飛ばしいと思って仕方なかったよ」
村井「でも、そんな時に事故は起きた」
村井「その日は朝から天気も不安定だ。仲間が次々(グライダーを)飛ぶのを止めていく中、過信していた俺は、いつもの通りフライトにでた」
村井「案の定、急な強風にグライダーを流されてそのまま・・・」
村井「危うく命を落とすところだったよ」
村井「当然俺は飛ぶのを止めて、グライダーはもちろんパイロットの夢も諦めた」
村井「自分の命だけならまだしも、人様の命をのせて飛ぶことなんて到底できないと思った」
村井「そんな時に教授が言ったんだ。村井、飛ぶのを止めるな。空の怖さを知っているお前が飛ばなくて、誰が飛ぶんだ、ってな」
村井「倉田、空を飛べ!

第八話も村井キャプテンのお株、爆上げ中ですね!!

「倉田、空を飛べ!」

パイロット志望者にとって、村井キャプテンのその言葉が、頭の中でループ再生されそうな勢いだと思います。

村井キャプテン役の丸山智己さんの声で、オリジナル目覚まし時計を作ったら、パイロット志望者に売れるでしょうね〜笑

JALUXさん商品開発いかがですか?

村井キャプテン・喜多見キャプテンの株価と、JALの株価がどう連動しているのか、楽しみにする事にしましょう。笑

冗談もこの辺までにして、、、

パイロットは臆病であれ 自然を舐めちゃいかん

「パイロットは臆病であれ」
「自然を舐めちゃいかん」

これはPILOT専門進学塾・シアトルフライトアカデミーの学生に対して、日頃から私が話していることです。

なんでも怖がって挑戦もできない人は、正直パイロットになれませんが、私の元にお越しくださる学生さんは、みな優秀で、私も尊敬できる方ばかりです。

そんな優秀な学生さんには、臆病であることの大切さを話すくらいがちょうど良いと思っています。(つまり誰でも通用する話ではない)

空の怖さを知っているからこそパイロットになれ、という言葉。とても大切に思います。

ヒューマンエラーも、その他要因の事故も、全ては過信から始まっていると思うのです。

人間は空を飛べる状態で生まれてきたわけではありません。空を飛ぶ行為自体が、人間にとってチャレンジであり、またリスクでもあるのです。

だからこそパイロットの過信は禁物であり、当たり前に空を飛べることはないのだと言い聞かせながら(程よく怖がりながら)飛んでほしいと思います。

村井キャプテンも空を飛ぶ事を怖いと思っていたのも、粋にとって意外だったでしょうけど、とても嬉しかったでしょうし、何より「パイロット失格じゃないんだ」と、自信を取り戻せたことと思います。

いやぁ、素晴らしい師弟愛!!

余談ですが村井キャプテンが粋を呼び出した場所は、JALメンテナンスセンター(格納庫)の屋上です!

一般には公開されていない場所ですが、ターミナルも見渡せて、さらに目前を飛行機が地上滑走で通りますので、最高のビューポイントだと思います。

有料でも構わないので、公開されたらいいですね!

大切な事なのでもう一度言います「パイロットは一人で飛んでいるんじゃない」

恋人である管制官の渋谷真夢(中村アン)も、粋が関空での滑走路誤進入に関係していたことを知り、また誤解が解けたこともあって、粋の力になりたいと粋の住むマンションを訪ねたり、実家まで押しかけたりと、奮闘を始めます。

ようやく粋を捕まえた真夢。

最初は「会いたかった」とか甘えた感じで言っていたのに・・・

心配がおさまったのか急にムカついて怒り出す真夢。笑

「パイロットは一人じゃ飛べないんだからカッコつけんな」

そして、パイロット復帰にまだ一歩の出ない粋にこう言うのです・・・

あなた、パイロットが一人で飛行機を飛ばすと思っているのですか?
パイロットは機長と副操縦士の二人が基本。他にも客室乗務員、グランドスタッフ、整備士、雪国では除雪隊など様々な人が関わっています。それから、管制官も・・・

「私たち、一緒に飛んでいるんでしょ?」

そう、ふたりがまだ若かった時に羽田空港の展望台で偶然に出会っていた時、真夢が粋に同じことを言ったんですよね。

その出会いがあって、真夢は管制官になることを心に決めて、粋も同じくパイロットを目指して、それぞれ頑張ってきた・・・

粋は次第に思い出すのです。あの時の大切にしてきた思い出・・・

粋がフラッシュバックしたのは、こっちの方だったんですね!笑

はい、第八話コラム①はここまで!

次回コラムで、いよいよ今回の考察コラムも終了となります。どうぞ楽しみにしていてください。

今回のコラムを書き続けて思ったこと・・・

このドラマを授業の題材にしたい!そう思えた素晴らしい作品でした。

ハドソン川の奇跡も素晴らしい映画でしたが、それに次ぐ良い作品でした。

ナイスフライトを制作してくださった皆様に、心から御礼を申し上げます!!

次回(第八話②)もお楽しみに!

パイロット適性診断テスト特集