NICE FLIGHT!(ナイスフライト)ドラマ第8話 航空専門家による考察2

パイロット志望者お待ちかねのテレビドラマ「NICE FLIGHT!(ナイスフライト)」が、2022年7月22日(金)からテレビ朝日系列でスタート、ドラマもあっという間の最終回になってしまいました。

この考察コラム(第八話②)も、これが最終回となります。

前回のコラム(航空専門家による考察 第八話①)の続きコラムです!
今回も情報量がありすぎるため、コラムを2回に分けさせていただきました。

第八話①をご覧になられていない方は、そちらからご覧ください。

NICE FLIGHT!(ナイスフライト)ドラマ第8話 航空専門家による考察1

このブログでは、ドラマをご覧になられたパイロット志望者の方が興奮したであろう場面や、その詳細解説、実際の現場のお話などを解説する「パイロット目線 感想コラム」です。

一部ネタバレ等が含まれておりますため、本ドラマをご覧いただいてから、コラムをご覧いただくことをおすすめします。

TVerやTELASAでも見逃し配信を行なっております。
また、DVD、Blue-rey BOXの発売も決定しました!

JAL507(羽田発新千歳行き)操縦技量確認フライト

副操縦士、倉田粋(玉森裕太)のラインOJTが、いよいよ再開しましたね!

同期たちからも、また倉田粋(玉森裕太)の永遠のライバルであり、最高の同期ペアである岡島瑛人(佐伯大地)からもたくさんのエールを貰い、出発前のブリーフィングに臨みます。

ちなみに作中によく出てくる、このブリーフィングルームは、実際のJALのブリーフィングルームにて撮影をしています。

たまに本職の方がエキストラで出演しているんですよ!

ブリーフィングルームに限らず、羽田空港第一旅客ターミナル内の出発ロビーや、JAL社内や、新整備地区にあるハンガーやテクニカルセンターなど、あちこちで撮影していました。冨村も偶然通りがかったことも。もちろん作中には登場しておりません笑

第八話では、リリーフパイロットというのが出てきますが、これは、技量確認中の倉田粋(玉森裕太)に何か乗務を継続できない事態が発生した時のための、正式な副操縦士役になります。

コックピット後方のジャンプシートにいて、バックアップ体制を整えています。

女性機長 喜多見七海の思い

ブリーフィング後、搭乗口に向かう倉田粋と、機長の村井雄太郎(丸山智己)「村井キャプテン」に、女性機長の喜多見七海(吉瀬美智子)「喜多見キャプテン」が声をかけます。

倉田粋(玉森裕太)は喜多見キャプテンに会えてとても嬉しそう。笑

先輩というより母親的存在の喜多見キャプテンですね。そこまで年齢が離れていませんが・・・

ラインOJT再開した倉田粋(玉森裕太)が気になり、なんとJAL507に乗りに来たというのです。

倉田粋(玉森裕太)は、航空身体検査が引っかかり乗務停止中の喜多見七海(吉瀬美智子)に、「まだまだ空を飛んでいて欲しい」と迫るのです。

女性機長の喜多見七海(吉瀬美智子)は、片目の屈折率(ジオプトリ)がオーバーしていて、航空身体検査をパス出来なかった、と村井雄太郎(丸山智己)にそう打ち明けています。

ジオプトリをオーバーするということは、視力が悪化した、ということになります。

視力が悪化した原因次第ではありますが、近視が原因ということであれば、レーシック手術で視力(ジオプトリ)の回復は可能ですが、長期にわたる経過観察も必要であることや、術後は太陽光が眩しく見えたり、何年も経過した後に視力が悪化してしまうリスクもあることから、簡単に決断できる話ではありません。

レーシック手術について パイロット志望者にはお勧め出来ない理由

レーシック手術について パイロット志望者にはお勧め出来ない理由
余談ではありますが、パイロット志望の方で、現段階で免許を取得されていない方には、レーシック手術はお勧めしません。レーシック手術は航空身体検査上、治療が可能になったように見受けられますが、航空会社採用時に、レーシック既往歴は離職するリスクの一つとして見られることから、敬遠される傾向にあるからです。

明らかに、第一種航空身体検査の基準や、募集要項に書かれているジオプトリを満たさない場合で、それらリスクを知った上でもパイロットを諦められない方には、レーシックは必要かもしれませんが、値をクリアしているにも関わらず、少しでも良い値を目指すために手術を受けることは、かえってパイロットの道から遠ざかる結果となりますので、どうぞご注意ください。

女性機長の喜多見七海(吉瀬美智子)は、それらのリスクも十分に考えた上で、現役を退いて訓練教官になるのか、それとも、まだまだ女性機長として活躍を続けていくのか、とても悩んでいるように感じます。

既に現場で働いているパイロットにとっても、手術を受けるかどうかは、大きな決断となる。

そんなレーシック手術ですから、視力の悪いパイロット志望者も、安易に決断しないようにお願いします。

ちなみに、喜多見七海(吉瀬美智子)が、倉田粋(玉森裕太)のラインOJTに搭乗したいと思った理由。

それは、冨村の勝手な想像に過ぎませんが、喜多見七海(吉瀬美智子)の中にも、パイロットを続けるべきか、の悩みを抱えているわけですから、その悩みを解決したかったからかな??と思います。

命を預かることの怖さと戦い、パイロットであり続ける道を選んだ倉田粋(玉森裕太)。

そんな倉田粋(玉森裕太)のフライトに搭乗する事で、喜多見七海(吉瀬美智子)自身も、パイロットであり続ける理由を見つけて、まだまだ現役パイロットとして頑張ってみたかったのではないでしょうか。

教えるということは教えられるということ

パイロットとはつくづく、教え合う職業だと思います。

いつも謙虚でいることが大切。機種が変われば、年齢関係なく訓練やり直し・・・

そんなお仕事ですから、教えたり教えられたりの繰り返しです。

機長の喜多見七海(吉瀬美智子)や、村井雄太郎(丸山智己)もまた、機長として今も学び続け、倉田粋から学ぶことも多いのでしょう。

それはもしかしたら管制官も同じかな??

そんな職業観をよく再現したドラマNICE FLIGHT!(ナイスフライト)・・・

もうすぐ終わってしまうと、本当に名残惜しい感じがしますね。

ドラマに出てきた一人ひとりの成長を、もっと見ていたかったと思います。

温帯低気圧が羽田に接近中 温帯低気圧とは?

「温帯低気圧が羽田に接近していますが、この便には影響はないでしょう」

運航乗務員と客室乗務員合同の出発前ブリーフィングで、倉田粋(玉森裕太)はそのように説明していました。

温帯低気圧とはそもそも何でしょうか?

あまり深く解説しても、コラムが長くなってしまうため、最低限の気象知識がある前提で解説して行きます。

低気圧には、主に、温帯低気圧、熱帯低気圧、寒冷低気圧の3つあります。(厳密に言えばもう少しあります)

今回の温帯低気圧は、低気圧の中でも最もオーソドックスなもので、温帯低気圧と呼ばずに、低気圧とシンプルに言われることが多いです。

出典:予想天気図の説明|気象庁

上の図は、気象庁サイト 天気図について(解説)から引用しています。

温帯低気圧は、カムチャツカ半島の先端付近に中心があり、紫(ピンク)、赤、青い線が出ていることが分かります。

上記のように、温帯低気圧の中心部分から、温暖前線(赤い線に半円)と寒冷前線(青い線に▲)が伸びているのが特徴で、温暖前線と寒冷前線が重なっている部分を閉塞前線(紫の線に半円と▲)と言います。

低気圧は、その中心に向かって反時計回り風が吹きます。

低気圧の南にある暖かい空気を、反時計回りで巻き込むように北に上げるのが温暖前線。

暖かい空気が冷たい空気を追っていく、空気の境が温暖前線となります。

逆に低気圧の北にある冷たい空気を、反時計回りで巻き込むように南に下げてくるのが寒冷前線。

冷たい空気が暖かい空気を追っていく、空気の境が寒冷前線です。

温度や湿度など性質の違う空気がぶつかっているわけですから、そこには当然雲が発生し、降雨現象が発生します。

温暖前線は、規模にもよりますが数時間かけて、さほど強くない雨が降り、前線通過後は気温が上昇することもあります。

しかし、温暖前線を追って、西から迫ってくる寒冷前線は、天気も急変し、降雨も極端になります。

この前解説した積乱雲(CB)が出来やすいのも、寒冷前線です。落雷や突風などの現象も発生します。

そして前線通過後は気温が急激に下がります。

昔話で伝わる「ヘソを鬼に持っていかれる」というのは、つまり雷が鳴っているのにヘソを隠さないでいると、急激に気温が下がり腹痛になる、という教えだと言われています。

倉田粋(玉森裕太)の言う、温帯低気圧が、どのように羽田に接近するのか、詳しく説明されていないことから何とも言えませんが、季節によっては、また場所によっては、天気の急変も考えられると言うことだと思いますが、これから羽田を出発する便ですので、新千歳に向かってしまえば、温帯低気圧の北側ですから、前線を横切ることも多分ないのでしょうし、問題ない、と言うことですね。

熱帯低気圧と寒冷低気圧もついでに解説

ドラマとは関係ないですが、低気圧3種のうちの残りの2つ。

熱帯低気圧と寒冷低気圧についても簡単に解説します。

熱帯低気圧とは、フィリピンのあたりから日本周辺の緯度で発生する低気圧のことです。

低気圧の成り立ちが、先に説明した寒気暖気の温度差による温帯低気圧と違い、高い海水温による上昇気流と水蒸気により発生するのが熱帯低気圧です。

ここで気づかれた方は素晴らしいですね。そう、熱帯低気圧は、つまり台風です。

国によっても定義は異なりますが、日本では、最大風速が17.2m/s(34kt)以上の熱帯低気圧を、台風と呼んでいます。

また寒冷低気圧は、偏西風(西から東に吹くジェット気流)がだんだんと蛇行していき、大きくカーブすると、その部分がショートカットされて寒冷渦として残ります。

その寒冷渦を寒冷低気圧と呼びます。

川の流れに例えるとわかりやすいですね。

斜度がない平野部で発生しがちな、川の蛇行、そして川から完全に切り離された三日月湖。

そう考えたら、寒冷渦ができる仕組みがわかる気がします。

寒冷低気圧の中心部分は冷たい空気(寒気)で、低気圧自体の進み方も遅いことから、寒冷低気圧が通ると、寒冷低気圧の南東側で特に、大雨(大雪)、突風、落雷などの影響が、長時間(数日)続くため、注意が必要な低気圧でもあります。

機内で急病人発生・・・チーム、そして機長、村井雄太郎(丸山智己)の決断は?

管制官(渋谷真夢)「Japanair 507, wind 220 at 8, runway 16R, cleared for takeoff」

恋人の管制官、渋谷真夢(中村アン)にも無事を祈るように見送られ、JAL507は羽田空港 Runway 16Rを離陸。

機長席に座る村井雄太郎(丸山智己)も、みんな倉田粋(玉森裕太)を温かく見守っている「みんな一緒に飛んでいる」そんな表情に、心がポカポカに温まりますね!

倉田粋(玉森裕太)は幸せ者だと思います。

そして、それだけ多くの方に祈る思いで見守られていると言うことは、それだけ倉田粋(玉森裕太)が、周りに尽くしてきたし、倉田粋(玉森裕太)ファンを作ってきた、、、そう言うことなのでしょう。後ほど、ファンを作ることの大切さについて、詳しく説明します。

さて、JAL507便は、山形市上空へと差し掛かる頃・・・

機内後方のお客様が胸の苦しさを訴えます。

近くに座っていた喜多見七海(吉瀬美智子)もバックアップに入る中で、チーフパーサーの飯塚理香子(黒川智花)がコックピットへ一報を入れるのです。

以降、緊迫した様子をチーム全体で解決しようと動いている様子を、そのまま振り返ってみましょう。

客室 飯塚理香子「突然、発作を起こされたようです。意識も混濁しているので、ドクターコールをします。」
機長 村井雄太郎「現在地は山形市上空。新千歳まで45分か。近隣空港への緊急着陸が必要かも知れないな。」
カンパニー無線 「パニック発作の可能性は低く、状況から見て不整脈か心筋梗塞も考えられます。」
カンパニー無線 「最寄りの仙台空港ですが、現在空港近くで火災が発生。ダイバートは可能ですが、消火活動や通行止の影響で、救急搬送に時間がかかる模様。」
副操縦士 倉田粋「機内にドクターがいない中で、村井キャプテンどうしますか?」
機長 村井雄太郎「今から羽田に引き返したとしても30分以上はかかる。それだと新千歳に向かうのと大きくは変わらない。新千歳に医師と救急車の派遣を要請する」
客室 飯塚理香子「お客様はかなりの呼吸困難です。一刻も早く、直接医師の判断を仰ぐべきだと思います」
機長 村井雄太郎「倉田、、、君の意見も聞きたい」
副操縦士 倉田粋「・・・・・私たちの仕事は、お客様全員を、安全に目的地へ送り届けることです。例え新千歳への到着が遅れたとしても、まずは急病のお客様を救うために、一分でも早く着陸できる羽田に戻るべきだと思います・・・」
機長 村井雄太郎「・・・機長の村井よりご搭乗のお客様にお知らせいたします。ただいま機内に急病のお客様がいらっしゃいます。そのため当機はこれより、東京国際空港、羽田へ戻ります。」
地上スタッフA「メディカルエマージェンシーでATBです。」
地上スタッフB「ATBしてくるシップが到着するので、スポット17番に向かってください。」
地上スタッフC「救急隊員にゲートへの誘導をお願いします。」
整備士 酒木ジェームス「おい時間ないぞ。あと30分だ、急げ!」
機長 村井雄太郎「(PA続き…)皆様のご理解、ご協力を賜りますよう、操縦室よりお願い申し上げます」

機長の村井雄太郎(丸山智己)による機内アナウンス(PA)が入ると、当初は騒つく機内。

しかし、村井の丁寧な説明により、すぐに落ち着きを取り戻したように見えます。

CAのバックアップに回っていた喜多見七海も、落ち着いている機内を見回し、色々なことを悟った表情を見せます。

この時、喜多見七海はもしかしたら、、、

「自分の就くべき仕事」を、また思い出したのかも知れませんね。

何かが起きた時に、少しでもお客様一人ひとりのことを考えて、一刻も早くチーム全体で的確な対処をする。

そして機長の決断の重さ。その後の丁寧な説明と、責任を負った者だからこそ可能な、お客様一人ひとりの心に響く機内アナウンス。

これがやりたかったんだ!と喜多見七海に気づかせた一幕だったように思います。

羽田にエマージェンシーランディング

エマージェンシーランディング(Emergency Landing)とは、緊急着陸のこと。

エマンージェンシーをパイロットが宣言するか、トランスポンダー(無線機器の一種)でSquawk7700をセットすると、管制官は、当該機の安全を最優先に確保するように動きます。

当該機がすぐに一刻も早い着陸を希望するのであれば、周りの機体を一時的に待機させるなど指示を出し、当該機を最優先で着陸させるように誘導するのです。

また、状況に応じて、救急車や消防隊などの手配も行います。

羽田空港へ戻るという決断!ATBとは?

ATB(エーティービー)とは、Air Turn Backの略です。

出発空港を離陸後に、何らかの理由で戻ることを意味します。

余談ですが、似た言葉としてGTB(Ground Turn Back)があります。これは離陸前の地上引き返しのことです。

第四話にて出てきた、ダイバート(代替着陸)とは少し違います。

着陸の候補地ですが、ダイバートの時同様、会社が就航している空港で、滑走路など要件を満たし、地上スタッフが対応できる空港でなければなりません。

特に今回は、Medical Emergencyですので、空港近くに医療機関がない場合も候補地としてふさわしくありません。

山形上空とのことですが、仙台は目と鼻の先。近くはありますが、高度処理のため、さほど時間節約になりませんし、火災で通行止と言う話もありますので、不適格でしょう。

成田は羽田より少しだけ近いですが、滑走路からターミナルが遠いですし、国内線の地上スタッフが足りないかも知れませんので、羽田の方がいいでしょう。

一刻も早く、ということだけで考えれば、羽田ということになってしまうのですが・・・

話は羽田管制塔にシーンを移して続きます。

(雨が強く降り出した羽田空港・管制塔の様子)

夏目幸大(阿部亮平) 「急にきたな。寒冷前線の影響ですね・・・。この発達したエコーが抜けるまでは、降りられないなぁ・・・」
(心配そうな顔つきの管制官 渋谷真夢と河原かすみ(玉城ティナ))

五十嵐太一(大河内浩)「新千歳に向かっていた507便がメディカルエマージェンシーで羽田に引き返してくるぞ!夏目くん、スポットの確認と救急車の手配を。」
夏目幸大(阿部亮平) 「今しています!」
(夏目の成長を喜ぶ表情を見せる次席管制官 五十嵐太一)
渋谷真夢(中村アン) 「前線通過のタイミングで、南風運用から北風運用に変更になりそうです」

はい、そうなんです。
出発前のブリーフィングで、温帯低気圧が接近中、とありましたよね。

ということは、低気圧の大きさや位置、進む速度が分かりませんが、少なくとも寒冷前線通過が迫っていることが分かるのです。

その寒冷前線が通過中で、予報よりも急激に天気が悪化した(積乱雲がちょうど空港周辺にかかってしまった)ということなのかも知れません。

はい、ここでまた先ほどの話に戻るわけです。

山形から新千歳に向かえば45分で着陸。

山形から羽田にATBすれば30分で着陸。ところが寒冷前線の影響があるかも知れない。

万が一、ゴーアラウンドしてしまうと、そこから着陸が伸びてしまい、もしかしたら新千歳より時間がかかってしまうかも・・・という瀬戸際の判断であることに変わりはありません。

このように、倉田粋(玉森裕太)も、機長の村井雄太郎(丸山智己)も、プロとして、温帯低気圧(寒冷前線)のリスクを忘れてしまっているわけではないと思います。

でもATBを決めた時点では、天気が急激に悪化しているという情報は入ってしませんし、実際に悪化していなかったのでしょう。

「一分でも早い方」という望みにかけた、ということです。

でも、積乱雲(CB)は、それだけ急激に発達することがあります。

天気図などを見ているわけではないので細かい解説はこのくらいにしておきます。笑

新千歳空港に向かえば、なんら問題のなかった温帯低気圧。

しかし、温帯低気圧から伸びる寒冷前線の影響により、積乱雲(CB)が急発達し、離着陸に影響が出始めているのです。

倉田粋(玉森裕太)の操縦するJAL507が羽田空港を離陸する際の風速は、220度の方向から8ノットでした。

南南西寄りの風が吹いていることから、その時点では温暖前線と寒冷前線に挟まれた場所にいることがわかります。

低気圧の北側に居れば東風、西側で寒冷前線の通過後の場所に居れば北風になるはずです。

ということは、低気圧の大きさや位置、進む速度が分かりませんが、少なくとも寒冷前線通過が迫っていることが分かるのです。

その寒冷前線が通過中で、予報よりも急激に天気が悪化した(積乱雲がちょうど空港周辺にかかってしまった)ということなのかも知れません。

はい、ここでまた先ほどの話に戻るわけです。

山形から新千歳に向かえば45分で着陸。

山形から羽田にATBすれば30分で着陸。ところが寒冷前線の影響があるかも知れない。

万が一、ゴーアラウンドしてしまうと、そこから着陸が伸びてしまい、もしかしたら新千歳より時間がかかってしまうかも・・・という瀬戸際の判断であることに変わりはありません。

このように、倉田粋(玉森裕太)も、機長の村井雄太郎(丸山智己)も、プロとして、温帯低気圧(寒冷前線)のリスクを忘れてしまっているわけではないと思います。

でもATBを決めた時点では、天気が急激に悪化しているという情報は入ってしませんし、実際に悪化していなかったのでしょう。

「一分でも早い方」という望みにかけた、ということです。

でも、積乱雲(CB)は、それだけ急激に発達することがあります。

天気図などを見ているわけではないので細かい解説はこのくらいにしておきます。笑

そして天気大荒れの羽田へ!奇跡は起きるのか?

さっそく、続きの会話を振り返ってみましょう。

村井雄太郎「まずいな、ゴーアラウンドになれば、搬送が遅れてしまう」
管制官  「Japanair 507, Tokyo Approach」
村井雄太郎「Japanair 507. Go ahead」
管制官  「現在羽田上空は、激しい雨と風でゴーアラウンドする到着機がほとんどです。507便は急病人がいるとのことですが、進入継続しますか?」
(村田と倉田が無言で顔を見合わせる)

村井雄太郎「はい、このまま進入許可をリクエストします」
村井雄太郎「倉田、右席での操縦は厳しいかもな。もし天気が回復しないようなら、俺の操縦に切り替えるから」
倉田粋  「・・・・・」

急病のお客様が一刻の猶予もないこと、ゴーアラウンドの経験などを思い出し、心の中に「羽田にATB」という自分の判断に対しての疑いだったり、一瞬、後悔を感じたのだと思います。

パイロットはバイアス(思い込み)がはたらくことがないように、常に、自分の考えや言動、それだけではなくて、自分の周りや状況変化に、常に疑いの目も持つようにしています。

自分が判断したことが、結果的に間違いだったかな?と思うことは誰でもあると思います。

それが、人命がかかっているなら尚更でしょう。

でも、それでクヨクヨ悩んでいても何も変わりませんし、その悩んでいる間にも、航空機は時速何百キロものスピードで前進しているのです。

いつも疑いの目を持ちながらも、逆に、悩んだり、後悔したりせず、これから先に起きるであろう現象を先回りして予測し、現状の中のベストを尽くせるように、考えていくのです。

色々なことが頭の中を巡っている中で、ふと渋谷真夢(中村アン)の言葉、「あなたパイロットは一人で飛行機を飛ばすと思っているんですか?」を思い出したようですね。

倉田粋(玉森裕太)は、恋人である管制官、渋谷真夢(中村アン)に勇気を貰って、いよいよ動き出したみたいですよ!

以下、続きを振り返ります。

村井雄太郎「倉田?」
倉田粋  「・・・・滑走路が滑るため、接地の際はハイドロプレーニングに注意して、Auto Break はMAXで行きます」
村井雄太郎「Roger」
渋谷真夢 「Japanair507, Tokyo Tower. 安全のため日本語で申し上げます。現在滑走路付近は激しい雨で視界不良です。周囲の飛行機はいません。風は90度の方向から15ノット、最大27ノット」
村井雄太郎「Roger」
(その瞬間、雲の切れ間から一筋の光が差し込む)
倉田粋  「あっ!」
村井雄太郎「・・・・・!」
お客様  「あ、すご〜い」
夏目幸大 「予想以上の強風で雲の流れが速くなっています」
渋谷真夢 「Japanair 507, Runway34L, cleared to land. Wind 080 at 13」
(天気は急回復に向かい、滑走路が十分見える状態になる。風は南風から北風へ変わりつつある)
倉田粋  「滑走路34Lへの着陸支障は無しですね?ギアダウン」
村井雄太郎「ギアダウン」
GPWS Callouts「Minimums」

村井雄太郎「ミニマム」
倉田粋  「コンティニュー」
GPWS Callouts「50,,30,20,10」

感動的で見事な着陸となりましたね!

雲の切れ間から見えた景色、奇跡が起きた瞬間を肌で感じた瞬間だったことと思います。

機長の村井雄太郎(丸山智己)も無言で圧倒されていましたからね。笑

風は080から13ノットということですが、直前に比べればだいぶ落ち着いてはいますが、羽田空港34L滑走路は東風の時、ハンガー(格納庫)越えの乱流の影響で、接地が伸びやすい特徴があります。

まだ787の実機に慣れていない倉田粋(玉森裕太)にとって、操縦のしにくさもあったと思うのですが、ハンガー越えの横風にもかかわらず、接地点が伸びずに安定的に降りれたのも、きっとツイていたのだと冨村は理解しました!笑

倉田粋的ツイているとは? 運をも左右する究極プラス思考

パイロットの適性のひとつに、「プラス思考にもなれること」があります。

厳しい訓練、人間関係の悩み、たくさんの大きな壁、刻々と変わる天気、何度も来る予定変更・・・

パイロットの仕事は精神鍛錬の連続です。

それだけ鍛錬を重ねても、十分なほど、パイロットでなければ見られない景色があるから、どんなに辛くてもパイロットであり続けるのだと思います。

でも、その景色を見続けたいと思えるか、それはプラス思考も大いに関係していると冨村は思います。

どんなに辛くても、目標を見失うことがあっても、倉田粋(玉森裕太)がパイロットであり続け、目標である国際線(ハワイ)乗務を叶えたのも、それは倉田粋(玉森裕太)が究極のプラス思考だからだと思うのです。

プラス思考であることは、才能でもあると思います。

そしてプラス思考のパイロットは、決まって「自分一人の力だけでパイロットになったのでもなく、無事にパイロットとして飛び続けていられるのも、周りの助けがあったからだ」と思っています。

周りに常に感謝を忘れず、いつも周りのことを見て、いつの間にか周りの人々の心を掴むのです。

この周りの人々の心を掴む、という現象。

これはファンを作ることと同じです。まるで倉田粋を演じた、玉村裕太さんのような、芸能人みたいですね。笑

ファンが多くいると、色々な場面で助けてもらえることが増えますから、結果的に物事がうまく捗るようになる=運気が上がるのです。

これを究極プラス思考と冨村は命名しています。

パイロット志望者の皆様にも、ぜひ倉田粋(玉森裕太)の究極プラス思考を見習って、パイロットになっていただきたいですね。

私が務めるPILOT専門進学塾・シアトルフライトアカデミーには、お陰様で、その究極プラス思考を理解いただける、パイロットの適性ある多くの若者が在籍してくださっています。

まず持って、そのことは冨村にとっても、本当に有難いことと感謝しています。

PILOT専門進学塾・シアトルフライトアカデミーは、これからも「倉田粋式 究極プラス思考養成所」であり続けたいと思います。

この究極プラス思考をご理解いただける方だけで構いません。

パイロット志望者の方、また現役パイロットの方に、ぜひご入会いただきたいと思います。

マイナス思考も必要 結局はバランス

いつもプラス思考だけでは、リスクを伴う場面でも正常性バイアス(いつも通り、きっと大丈夫だろう・・・と思い込むこと)にブレーキが効かなくなってしまうため、マイナス思考も必要ではありますが、パイロットには、状況に応じて両方を使い分ける必要があります。これもバランス力(適性の一つ)です。

航空専門家による考察コラムはここまで!

NICE FLIGHT!(ナイスフライト)航空専門家による考察コラムは、今回で終了となります!

前回も少し触れましたが、このドラマはパイロットを志望される方にとって、教育的な価値もある作品だったと思っています。

特に、これからの航空業界をこうしていきたい、という関係者の想いが込められた、パイロットドラマの代表作的なものに仕上がっていると感じました。

冨村は第八話までに専門家考察コラムを10作品担当、計5万字を執筆しましたが、正直、まだまだ書き足りないことだらけ。解説も、かなり省略して書いており、もっとたくさん、時間をかけて解説したかったなと思うくらいです。

コラムの解説が不足しているところは、他のコラム内でも触れていますし、パイロット志望者皆様には、相談や授業を通して、他のパイロット志望者の皆様や現役パイロットの先輩方と一緒に、和気藹々とお話させていただいていますので、ぜひご参加いただければと思います。ただし、このドラマの本質である「たくさんの人と向き合う覚悟がある方だけ」お越しください。笑

改めまして、ナイスフライトを制作してくださった方、番組に協力をしてくださったたくさんの関係者、皆々様に、心から御礼を申し上げます!

2ヶ月間にわたり、航空関係者による考察コラムにお付き合いくださいましてありがとうございました。

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