NICE FLIGHT!(ナイスフライト)ドラマ第6話 航空専門家による考察

パイロット志望者お待ちかねのテレビドラマ「NICE FLIGHT!(ナイスフライト)」が、2022年7月22日(金)からテレビ朝日系列でスタート、ドラマもいよいよ最終回に向けて佳境となっていますね!

8月26日(金)は第六話が放送。

副操縦士の倉田粋(玉森裕太)が、倉田 粋がひと聞き惚れしてしまった、航空管制官の渋谷真夢(中村アン)に対して、羽田空港の展望デッキでようやく気持ちを伝え、恋人となり最高潮の盛り上がりを見せる中、倉田粋(玉森裕太)の機種移行訓練が決定。同期の副操縦士、岡島瑛人(佐伯大地)とペアを組むことになるものの、厳しい訓練の中で岡島瑛人(佐伯大地)と仲違いをして最悪のムードに。

さらに渋谷真夢(中村アン)にも、元カノとの関係を疑われ、避けられてしまう、、、という、相変わらずの倉田粋的に言うツイている展開です。笑

いや、今回ばかりはツイていないのか???

このブログでは、ドラマをご覧になられたパイロット志望者の方が興奮したであろう場面や、その詳細解説、実際の現場のお話などを解説する「パイロット目線 感想コラム」です。

一部ネタバレ等が含まれておりますため、本ドラマをご覧いただいてから、コラムをご覧いただくことをおすすめします。

767から787へ機種移行訓練が開始!

第四話のコラムにて予想した通り、機種移行訓練が正式に決まり、第六話ではいよいよ訓練が開始となりましたね。

付き合い始めていきなり、倉田粋(玉森裕太)が渋谷真夢(中村アン)を自宅デートに誘って、遅い手作り夕飯を食べながらの会話シーンから。

渋谷「パイロットって一人一機種しか操縦出来ないんですよね?操作ミスを防ぐ安全上。」
倉田「そう、世界中飛び回るには再訓練を受けて免許を取り直すんだけど、俺はまだまだ」
倉田「ハァ〜でも78(ナナハチ=Boeing787)かっこいいんだよな〜」
渋谷「ご両親を(思い出のハワイへ)乗せてあげられるといいですね、、、」

第五話のコラム内でも触れましたが、機種移行訓練とは、パイロットが複数の機種を短い期間内に操縦することが出来ない資格制度(機種限定資格)であることから、機種を乗り換える時に行われる訓練のことを指します。

NICE FLIGHT!(ナイスフライト)ドラマ第5話 航空専門家による考察1

30〜40年ほどのパイロット人生の中で、多い方でも「機種限定資格は6機種持っているよ!」くらいの感じ。

日本人パイロットの平均は、公式の数値など何もないですが、およそ4機種くらいかな?という印象です。

つまり、それほど頻繁に機種移行をする訳ではない、ということですが、やはり新しい機種ともなると、システムも設計思想も違ったりしますので、細かいことを言えばスイッチの扱い方や呼び方ひとつから覚え直しする必要があり、機種移行訓練は大変な訓練だったりします。

ちなみに、渋谷真夢(中村アン)は会話の中で触れませんでしたが、航空管制官も担当する空港が変わると、訓練やり直しとなります。

空港の管制の場合、トラフィックの量、地形や気象の特性などなど、性質上同じ空港は一つとして存在しませんから、空港が変わると、管制官のレーティングに関わらず、その空港が長い管制官の元で学び直すそうです。

パイロット訓練生の心構えとは?

いよいよ座学が始まるという段階で登場した、シミュレーター訓練インストラクター(Boeing787機長)の村井雄太郎(丸山智己)「村井キャプテン」のセリフから振り返ってみましょう。

村井機長 「先に言っておくが、あくまでも訓練の主体は君たち。インストラクターはその手助けをするに過ぎない。甘い考えは捨てろ。自ら考えて動け。」

〜中略〜
村井機長 「倉田、岡島。君たちは今日からペアだ。ラインOJTまでは全ての訓練を共にする。ペアの協力と、チームの情報共有は必要不可欠だ。」
訓練生全員「はい!」

短いセリフでしたが、ここにパイロット訓練生の心構え(真髄)が詰まっていると、冨村は思います。

私の勤めるPILOT専門進学塾・シアトルフライトアカデミーでも、日頃から同様の説明を、年齢関係なく心がけています。高校生や大学生にとっても厳しいかも知れませんが同様です。

訓練は、学校の勉強とは全く異なります。

エアラインでの訓練はもちろんその通りですが、例えば、私大パイロットコースも同じことです。

大学に入学する前には、勉強(誰かが教えてくれる・手助けしてくれる)という他力本願な考え方から脱却して、自ら学ぼうとする積極的な姿勢が求められます。

村井キャプテンの開口一番のお言葉ですが、副操縦士として既に飛んでいる倉田粋(玉森裕太)らにとっては、不要にも思えます。

自社養成訓練が始まったばかりならまだしも、、、です。笑

パイロット志望者の皆様には、今日からぜひ心得ていただきたいことですね。

続けて、座学後の同期の食事シーンを振り返ります。

倉田粋 「ねぇ岡島、さっきのトリムリファレンススピードなんだけどさ、、、」
岡島瑛人「倉田さ、足引っ張んなって言ったよな(怒)」
訓練生A「あ、俺もそこ、分からなかった」
訓練生B「私たちがさっき調べたところだね。シェアしよう!」
訓練生B「787だとパイロットはトリム操作で・・・」(不満そうな岡島の表情)

岡島瑛人(佐伯大地)は怒っていますね!さすが「Mr.ストイックパイロット」
(第五話コラムにて冨村が勝手に命名笑)

岡島瑛人は、今作では主人公 倉田粋(玉森裕太)など同期への上から目線な言動で、すっかり嫌われキャラになってしまっているようですが、冨村はそうは思っていません。

人への接し方(言動)など岡島瑛人の問題点もあるのですが、岡島瑛人が言いたいこともとても分かるのです。

なぜならば、そもそもパイロット訓練生の心構え(真髄)として、一人ひとりが最善を尽くして準備万端に、訓練や座学に出席するのが当たり前だからです。

厳しい言い方かも知れませんが、「ペアで支え合う」「チームと情報共有」というのは、それぞれが最善を尽くし合っているからこそ成り立つものであり、準備に不足があったことは、結果的に足を引っ張っていると言われても仕方がないのです。

岡島瑛人(佐伯大地)の問題は、ストイック過ぎて周りが見えなくなることではありますが、仕事に対する真摯な姿勢は、高く評価に値しますし、その点は今作においても、倉田粋はもちろん、仲間からも評価されている(信頼されている)ポイントです。

第七話以降も、倉田粋(玉森裕太)と岡島瑛人(佐伯大地)の関係が楽しみですね!

767と787の大きな違いとは?「トリム(Trim)」とは?

座学中の会話シーンを振り返りましょう。

座学教官 「飛行機を安定して飛ばすためには、操縦桿のトリムスイッチを使って、常にバランスを取ることが大事だが、787のトリムシステムについては当然解っているだろうな?」
訓練生一同「・・・・・」(互いに無言で顔を確認し合う中、岡島瑛人は呆れた表情)
岡島瑛人 「787はトリムスイッチを操作すると飛行機が安定するスピード、いわゆるトリムリファレンススピードを変化させるシステムで、パイロットのトリム操作が一旦コンピューターに入り、必要な操舵量をコンピューターが割り出した上で・・・」

何やら複雑な話が出てきましたが、パイロット志望者にとって、興味のある話題だと思いますので解説いたします。

まず、トリム(Trim)とは、セリフにもあるように「飛行機を安定して飛ばすための装置」です。

飛行機の操縦経験がない方がこの解説を読んでくださっていると思うので、(経験者は読み進めてくださいね)車や自転車のハンドルに例えたいと思いますが、低速走行の時(例えば車庫入れをしている時とか)には、ハンドルを大きく、時には限界まで動かすと思いますが、高速走行の時は、そんなに動かしたら、車は転覆してしまいますよね?

つまり、ハンドル(舵)は、速度により動かす可動域が変わるものであり、速度の大きくなる航空機は、さらにその可動域の違いが、その時の速度により大きく変わるということになります。

フライトの局面(スピード)によって、ちょうど操作をしたい可動域にフォーカスすることをトリミング(トリムを取る)と言い、トリムが取れている状態では、舵を大きく動かす(圧を加える)ことなくても、極端な話、手放しでも、安定姿勢のフライトとなります。

パイロットになって初めて飛ばすことになるであろうセスナなどの小型機も、倉田粋(玉森裕太)が操縦してきた767も、そしてこれから機種移行する787も、ほぼ全ての飛行機に、このトリムは装備されており、操縦に欠かせないものとなっています。

787の座学教官が、767経験者の訓練生に対してトリムシステムに関する質問をして、岡島瑛人(佐伯大地)以外回答が出来なかったのはなぜでしょう?

それは、767と787のトリムシステムが根本的に違うためです。

それを知るためには、フライバイワイヤ(Fly-by-wire)について先に学ぶ必要があります。

フライバイワイヤ(Fly-by-wire)とは?

ドラマで登場する767と787は、両機種とも200〜300席ほどの中型機と共通点も多いのですが、製造時期の違い(古いのは767、新しいのは787)があり、大きな違いはこのフライバイワイヤ(Fly-by-wire)であるか否かです。

フライバイワイヤ(Fly-by-wire)とは、787の一つ前、大型機777から導入された、新しい飛行制御システムのこと。

従来の機体では、操縦桿と舵が直接ヒモのようなもので繋がっていて、例えば操縦桿を手前に引けば、水平尾翼にあるエレベーターという舵が動き、機体が上昇に転じる、というものでした。

大型機ともなると、舵が重くなるため、車で言うパワーステアリング同様に、油圧によるサポートを受けて大きな舵を動かしているのですが、ヒモで直接繋がっているのには変わりがありません。

フライバイワイヤ(Fly-by-wire)機の場合は、このヒモがなくなり、代わりに、操縦桿から舵まで、電線(wire)とコンピュータとアクチュエータ(電気信号を物理的運動に変換する装置)によって繋がっており、一度電気信号化されるため、機体重量の削減、整備の簡素化が可能となっています。

プチ解説

767(Boeing767)は1978年から設計が開始された航空機で、2014年頃まで製造されていた航空機です。

航空機関士が不要となり、2人乗務が開始されたのもの同機種。

アナログ計器がグラスコックピットになったのも同機種。

エンジンが2発にも関わらず洋上飛行が出来るようになっていったのもの同機種と、当時はハイテク機の先駆け的存在でした。

777(Boeing777)は1990年に設計開始された航空機。

新システムであるフライバイワイヤを採用し、747と同程度の大型機でありながら、2発エンジン(双発)であるなど、運航コスト削減に貢献した。

787(Boeing787)は2003年から設計開始された航空機で、767、777の後継機との位置付けです。

767と同程度のサイズで、777(大型機)並の航続距離を叶え、オフシーズン時の観光路線や、さほど旅客ニーズの多くない長距離路線に就航するなど、世界中で活躍しています。

このように、25年の歳月を経て、767から787へとバトンが継がれている状況ではありますが、途中でフライバイワイヤ(Fly-by-wire)という新しいシステムが加わり、従来機からの機種移行にあたって、操舵感の違いはもちろんのこと、トリムシステムの設計が違ってくるため、機種移行訓練のポイントの一つになっている、という訳です。

トリムリファレンススピードとは?

倉田粋(玉森裕太)と岡島瑛人(佐伯大地)の仲違いの原因となった「トリムリファレンススピード」とは何なのか、パイロット志望者の中でも、向上心や自立心の強い優秀な方向けに解説していきます!

767にはなかったフライバイワイヤというシステムが関連しているのは、この流れをご覧になっていたら分かると思いますが、トリムリファレンススピードとは、ズバリ、トリムを取る時に基準とするスピードのことです。

ではトリムも付いている767のパイロットだった倉田粋やその同期たちが、どうしてトリムリファレンススピードを知らなかった理由は、

フライバイワイヤ(Fly-by-wire)になったことで、トリムの基準が変わったからなのです。

事前に知っていた(学習していた)岡島瑛人は、村井キャプテンの指示通り、自ら率先して学んできた結果、正確に回答できたのであり、倉田粋や他の同期たちは、自ら率先して学ぶ、という姿勢に不足がある=訓練生の心構えとして疑問、と岡島瑛人は不満を感じたのでしょうね。

トリムリファレンススピードの詳細について、せっかくなのでもう少し触れてみます。

例えば従来機において機体をピッチアップしたい(上昇させたい=スピードを下げたい)時、操縦桿を手前に引くわけですが、大きく動かすときは、当然手前に引く力がたくさん必要となり、結果、重いと感じるはずです。

その時、エレベータトリム(スイッチ)をアップ側にカチカチと押すことで、水平尾翼にあるスタビライザが動き、操縦桿をさほどまで手前に引かなくても、目安となるピッチアップが可能となるため、結果、操縦桿は軽く感じるようになります。

さらにカチカチとトリムスイッチを押すことで、操縦桿を手前に引かなくても、目安となるピッチを維持できるようになります。

(この際、パワーやスピードとの関連は抜いて説明しています)

フライバイワイヤ(Fly-by-wire)機の場合、操縦桿の動きを一旦電気信号化している、と先ほど解説しましたが、ただ電気信号化しているだけではありません。

最初に説明した通りで、高速飛行時と低速飛行時の舵の可動域(領域)は違うことから、少しでも操縦する上で安全(安定)な思想を取り入れた結果、トリムを取る際の速度目安を参照することで、適切なトリム操作となるように、コンピュータが計算してくれることになりました。これが、トリムの基準が変わった、という意味です。

Boeing777より一足先にフライバイワイヤ(Fly-by-wire)を旅客機に装備したAirbusA320では、C*(シースターと呼ぶ)という考え方を導入。

C*ではスピードよりもピッチを優先する様に、コンピュータが適切なトリムを計算し舵に伝えているのです。

従来機なら、ピッチアップ(上昇)すれば、スピードが次第に下がる(運動エネルギ→位置エネルギ)ため、機体は次第に自然とピッチダウンしスピードを回復(位置エネルギ→運動エネルギ)しようとするのですが、C*ではピッチが維持されるため、結果パイロットがスピードの認識が遅れ危険なことがあります。(そのためのプロテクションは付いていますが)

Boeing777は、C*とは違う、C*U(シースターユー)という考え方を導入。C*には不足している点を補い、従来機に似た挙動をするようにひと手間加えているのです。それがトリムリファレンススピードという概念です。

第七話ではラインOJT(路線OJT)へ

いかがだったでしょうか。今回のコラムでは、トリムリファレンススピードの解説にあたり、一緒に相談員を務めてくださっている渡邊英一さん(PILOT専門進学塾・シアトルフライトアカデミー 主席教官)にも監修をお願いしましたため、コラム公開が遅れてしまいました。

なお、渡邊英一さんは、Boeign767の導入に携わったのちに、Boeing777を日本人で初めて操縦されるなど、導入にあたって多大な貢献をされたベテランパイロットです。この場をお借りして心から御礼申し上げます!

渡邊英一さんの担当するパイロット相談枠が、羽田空港校にて隔週日曜日にありますので、ぜひそちらも合わせてご利用くださいね〜

それにしても、私のコラムの予想、毎回当たって怖いですね。

「機種移行訓練で、同期と仲間割れが起きたり、真夢との仲も、一時的に疎遠になったり、喧嘩してしまったり、あるのかも・・・」

なんて、前回書いていましたが、その通りになりました!やった〜笑

第七話、そして第八話(最終話)の展開も楽しみですね!

え?なんで今後の展開を予想しないのか?ですか??

それは、コラム執筆が遅くて、実は第七話、既に見てしまっているからです笑

すみません・・・

ではまた来週!

最後までご覧いただき、ありがとうございました!

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