NICE FLIGHT!(ナイスフライト)ドラマ第5話 航空専門家による考察2

パイロット志望者の皆さまこんにちは!理事長・パイロット養成コンサルの冨村です。

前回のコラム(航空専門家による考察 パート5)の続きコラムです!
第五話は情報量がありすぎるため、コラムを2回に分けさせていただきました。

パート5をご覧になられていない方は、そちらからご覧ください。

NICE FLIGHT!(ナイスフライト)ドラマ第5話 航空専門家による考察1

このブログでは、ドラマをご覧になられたパイロット志望者の方が興奮したであろう場面や、その詳細解説、実際の現場のお話などを解説する「パイロット目線 感想コラム」です。

一部ネタバレ等が含まれておりますため、本ドラマをご覧いただいてから、コラムをご覧いただくことをおすすめします。

TVerやTELASAでも見逃し配信を行なっております。

積乱雲はパイロットが最も恐れる雲

第五話では、発達した積乱雲によって、倉田粋(玉森裕太)と女性機長 喜多見七海(吉瀬美智子)が振り回され、結果、倉田粋と渋谷真夢(中村アン)の花火デートが間に合わなくなる、という話でしたが、この積乱雲(Cumulonimbus=CBとも言う)は、パイロットが最も恐れる雲なんです。

パイロット志望者の方は、空に憧れるだけあって、よく飛行機と一緒に雲も眺めるのではないでしょうか?

NICE FLIGHT!(ナイスフライト)が放送されている2022年夏も、青空を見上げれば、モクモクとした入道雲!夏空を満喫できたことと思います。

あの入道雲ですが、実は積乱雲の一種だったりします。(積雲の場合もあります)

入道雲の上はモクモクとしていますが、さらに成長を続けると、てっぺんが平になります。

こんな雲のことをかなとこ雲と呼び、それはもう、パイロットなら誰もが近づくことを躊躇う、悪魔のような雲です。

余談ですが、かなとこ雲の上部が平になるのは、その高度よりも上へ成長することが出来ないためで、その平になっている高度を対流圏界面(Tropopause=トロポ)と言い、それより上は成層圏になります。

標高の高い場所は寒いということは誰もが知っていますが、高度が高くなると永遠に気温が下がり続けるわけではなく、この対流圏界面にて、一度、気温減率がプラスからマイナスへと転じて、成層圏では気温が上昇を始めます。

積乱雲は、たった1分間で何千フィートも急成長することもあるなど、とてつもないエネルギーを持っていて、地上には、大雨、あられ、雹、強風、竜巻、ダウンバースト、落雷などの、多数の被害を出します。

2022年も各地で被害を出した「線状降水帯」もまた、この積乱雲が次々と列を作って発生し、同じ場所に停滞するなどして、長時間にわたり大雨を降らせ続ける現象で、本当に恐ろしいものです。

第一話に登場し、倉田粋が渋谷真夢に「ひと聞き惚れ」するキッカケともなったマイクロバースト現象ですが、これも、この積乱雲の下部、特に積乱雲進行方面に収束して吹く強風のことです。

以上より、積乱雲はパイロット泣かせの雲と言っても過言ではないでしょう!パイロット志望者の皆さまにも、ぜひ事前に学んでいただきたいことです。

完全な余談ですが、、、

冨村が勤めるPILOT専門進学塾・シアトルフライトアカデミーでは、毎年恒例の夏合宿が、2022年も8月初旬に行われましたが、こうした積乱雲を見て学ぶことも恒例行事となっております。

JAL319便で羽田空港を出発した直後の、倉田粋(玉森裕太)と女性機長 喜多見七海(吉瀬美智子)の会話シーンから。

粋  「あの雲ちょっと気になりますね」
粋  「レーダ上だと問題なさそうですが、どうしますか?」
喜多見「なるべく揺らさないように行こう」
喜多見「右に10マイル、進路変更リクエストして」
粋  「ラジャ」
粋  「Tokyo Control, Japanair 319」
管制官「Japanair 319, Tokyo Control, go ahead」
粋  「Japanair 319, request 10 miles right side deviation due to weather」
管制官「Japanair 319, 10 miles right side deviation approved」

デビエーション(deviation)とは、コースから逸脱すること。

つまり、コース上にかかる積乱雲を避けて、なるべく揺れないようにするため、コースを10マイル右側に逸脱する承認を管制官(Tokyo Control)から貰う、という場面になります。

先述の通りで、積乱雲は急激に成長する場合があることと、レーダーに映りにくい場合もあるため、なるべく避けた方が良いという判断なのでしょう。

出発したばかりで、シートベルトサインをオフにした後だと、客室乗務員も慌ただしくサービス開始に向けて準備を始めている段階ですので、ここで準備を中断するような事態も、なるべく避けたいところだったりします。

万が一にもシートベルト着用せずに積乱雲に近づいた場合、突然の揺れで客室乗務員やお客様が大怪我をされる場合もあります。

特に、福岡線に投入されているB767だと、ファーストクラスが5 席あり、ドリンクだけではなく機内食が短い時間に提供されますので、客室は大変慌ただしいことと推察されます。

航空機は燃料満タンで離陸するわけではない

航空機は全体の重量に対する燃料搭載量が占める割合が4〜5割もある乗り物です。

つまり、燃料を満タンにしてしまうと、全体の重さが倍近くになってしまいます。

余談ですが、倉田粋(玉森裕太)が操縦するBoeing767-300ER型機で換算すると、最大搭載燃料量が約16万ポンド(約73トン)に対して、最大離陸重量(離陸可能な航空機全体の重さ)が約41万ポンド(約187トン)ですので、燃料満タンの場合は全体の重さの実に39%が燃料ということになります。

さらに余談で、B767-300ERを満タンにすると、あくまでも理論上は、約11000キロ(東京〜ニューヨークに相当)飛ぶことができます。

それだけ燃料をたくさん積むということは、燃料を運ぶためにその燃料を使っている、ということになってしまいますので、効率よく飛ぶためには燃料を無駄に積みたくないのです。

したがって、航空機は出発時に、出発地から到着地までの必要最低限の燃料がいくらになるかを計算し、その最低限の燃料に、万が一の際の着陸やり直しや、代替着陸までに必要な燃料など、若干の余裕を足した搭載燃料量だけを積んで出発します。

パイロット志望者の中でも、車を運転する方はいらっしゃることと思いますが、これからドライブだ!という時に、同様の計算をして、最低限しかガソリンを積まない、なんて方はいらっしゃらないですよね・・・笑

それは、そもそも自動車の航続距離がさほど長くないため、満タンにしても、最低限しか積まなくても、燃費では微々たる差だからです。でも航空機は違います!

JAL319便で淡路島上空(兵庫県)を通過した直後の、倉田粋(玉森裕太)と女性機長 喜多見七海(吉瀬美智子)のシーンを振り返りましょう。

管制官「Japanair 319, Kobe Control, 福岡空港付近の山岳エリアで発生した雷雲が急接近。空港周辺が雷雲で覆われています。その影響で、被雷及び雹(ひょう)の可能性があるため、現在到着予定機は全機上空を旋回して着陸待機中」
粋  「了解です。」
喜多見「予測だと雷雲の影響はそう長くは続かなそうね。燃料も問題なし・・・」
喜多見「予定通り福岡空港へ向かって、上空待機しよう!」

はい、着陸できないなど、想定外のことが起きると、パイロットはまず燃料が足りるかどうかを、真っ先に考えています。

これは先述の通り、最低限の燃料しか搭載していないためです。

ダイバート(代替着陸)とは?

ダイバート(代替着陸)とは、目的地の空港が、気象など何らかの理由によって着陸ができない場合、別の空港などに着陸することを言います。

先述の通り、最低限の燃料しか搭載していこと、そして上空待機中でも、航空機は飛び続けるために燃料を消費していることから、永遠と上空待機を続けることが出来ず、ダイバート(代替着陸)を検討する必要が出てきました。

先ほどの、倉田粋(玉森裕太)と女性機長 喜多見七海(吉瀬美智子)の会話シーン続きから。

粋  「・・・キャプテン、一つ宜しいでしょうか?」
粋  「この便はダイバートの可能性があるとアナウンス済みですよね?近隣の空港へ向かうことは考えられないでしょうか?」
喜多見「アナウンスしているとは言え、お客様は福岡空港行きのチケットを買っている。安全に目的地に着陸できるチャンスがあるなら、それを第一優先に考えるべきじゃないの?」
粋  「はい。ですが・・・」
喜多見「目的地はすぐそこよ。今の残燃料で上空待機できる30分以内に天候が回復するかも知れない。それに福岡空港の標準のダイバート先は長崎空港。この風向きだと、向こうにも雷雲が流れ込む可能性もある。」
喜多見「ダイバートの判断は、慎重にしないと」
粋  「・・・はい、キャビンに連絡します」

副操縦士であっても、物怖じせず、機長の喜多見七海へ自分の意見を表明できる倉田粋も偉いし、またそれを妨げるような言動をしない喜多見七海もすごい!

二人の息の合ったコンビネーションを感じますね!

これはアサーション(assertion)という考え方から来ています。

アサーションとは、相手の立場を尊重しながらも、自分の意見をしっかり伝えることができるコミュニケーション術のことです。

現代の旅客機は2名で操縦するものとして設計されており、ふたりが上手にコミュニケーションを取り合い、力を合わせて効率よく操縦しなければなりません。(いずれCRM=Crew Resource ManagementやTEM=Thread and Error Managementも解説したいですね。)

倉田粋が意見を述べた後に、喜多見七海も自分の意見を述べます。喜多見が言っていることも決して間違っているわけではないため、倉田粋も一度は受け入れます。それでも、まだ何か言いたげですね・・・

そんな二人の会話シーン(続き)を見てみましょう。

粋  「もう15分以上待機しています」
喜多見「仕方ない。無理に着陸することも出来ないし。もう少し待とう」
粋  「でも、天候が回復して着陸が再開したとしても、複数の先行機がいますよね。」
粋  「それに燃料の少ない便が優先されるとなったら、この便は後回しされます」
喜多見「だとしても、それが目的地への最短アプローチよ。一刻も早く降ろしたいお客様がいるのは分かるけど、こういう時こそ焦って判断しちゃいけない」
粋  「それでも、僕はダイバートすべきだと思います。この便には、座り慣れない椅子でお疲れの方や、出産を控えた方もいます。他にもお客様一人ひとり事情を抱えて乗っています。」
喜多見「でも、、、」
粋  「ダイバート先を、長崎空港ではなく北九州空港にすれば」
喜多見「北九州?」
粋  「はい!北九州空港なら福岡空港と車で約1時間の距離です。ダイバートした場合でも、お客様それぞれの目的地へ大きく遅れずに到着できる可能性がある」
喜多見「北九州空港で一度希望されるお客様を降ろしてから、福岡に再度飛ぶかの調整・・・」
粋  「はい」
喜多見「定刻も効率も合ったもんじゃないわね〜」
喜多見「・・・倉田くん、北九州空港へのダイバートを要請して!」
粋  「ラジャ」

倉田粋の意見が通り、結果、お客様も全員が北九州空港で降機されて目的地まで向かわれたとのこと。良かったですね!

でも、北九州空港へダイバートしてしまったため、かえって羽田空港へ戻るのが遅れます。

そう、実は倉田粋にとっては、花火デートの可能性を少しでも残すために、30分の上空待機の後に福岡空港へ着陸し、予定通りJAL320便を運航した方が良かったはずなんです。

でも倉田粋は一人ひとりのお客様を思い浮かべて、最良の選択をしたのですね。

これがもしかしたら、倉田粋が出した「パイロットがお客様に寄り添う」の答えなのかも知れませんね。

ダイバート(代替着陸)は誰が決めるの? 機長の決断の重さ

女性機長 喜多見七海(吉瀬美智子)も言っていたように、ダイバートは予め定められた標準空港があります。

なぜダイバート先は決められているのか?

それは、どこでも着陸すれば良い、というものではないからです。

着陸に十分な滑走路、その機体に合った誘導路、駐機場、搭乗橋、対応可能な地上スタッフ、整備士、などなど、条件を挙げたらキリがありません。

それらを満たした場所ともなると、パイロットが運航した実績があり、自社便がいつも乗り入れている、そこそこの空港でないと代替地として相応しくない、ということになります。

また、ダイバートする理由によっては、その後のお客様の振替対応や、交代乗員の手配対応のし易さ、機体整備に費用のかかりにくい空港であったほうが、会社としても都合が良かったりします。

代替着陸の最終判断は、当該機を運航している機長が下すわけですが、作中には描かれていませんが、それまでの過程には、会社の判断なども入ってくるので簡単ではありません。

だからと言って、いつも会社がベストな提示をするわけではなく、パイロットは会社任せにせずに、幅広い知識をフル活用して決断を下したほうが、よりお客様へ寄り添うことができるのではないでしょうか。

その点、倉田粋は、北九州空港から福岡市内には車で1時間であることを知っていたのは素晴らしいことで、この知識がナイスジャッジを生んだのだと思います。

お客様と一緒に、その機に乗っているパイロットだからこそ感じる状況もあるし、その機の最終的な運航責任は機長が負うべきもので、仮に社長であっても機長の決断を曲げることは許されないのです。

これが機長の決断の重さなのです。

いよいよ機種移行訓練へ

告知を観ると、第六話では、Boeing787への機種移行訓練が始まったような流れになっていますね。

前回執筆した時、もしかして移行訓練?と書いたかと思いますが、予想が当たりました笑

次回が第6話。最終話は8か9話?と考えると、この機種移行訓練で、同期と仲間割れが起きたり、などなど、トラブルが予想されますね。それに伴って、真夢との仲も、一時的に疎遠になったり、喧嘩してしまったり、あるのかも・・・

きっと二人なら乗り越えてくれると信じて。そして、倉田粋が操縦するBoeing787で、母親も真夢も、ハワイへ乗せて行けると信じて・・・

これからの波乱の展開を楽しんで行きましょう!

また来週!

最後までご覧いただき、ありがとうございました!

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