〜あの日見た飛行機雲〜 国際線機長40年の想い 第七章 天候=未知との遭遇7−1

1969年10月某日、ロンドン⇒アンカレッジ便、私がDC8のFO時代の経験です。

私以外のクルーは機長米国人、FE米国人、NAV(ナビゲーター)米国人でした。

高度3万フィート(約10km)前後、速度M0.82(音速の82%)

雲の無い好天中、北極上空を経由してアラスカの陸地に入ってマッキンレー山(現在名デナリ)が右前方に見えてきた頃、突如として物凄い揺れに見舞われました。

「イグニッション!」機長が外れたAUPI(自動操縦)を左手で操縦桿を持ちながら叫びました。
右手でオーバーヘッドパネル(天井前方)にある4個のSW(スイッチ)を入れようと手を伸ばします。

私もSWを前方に倒してONにしようと、左手を延ばしました。
後席のFEもベルトで固定された体をイスごと動かして、同じように手を。

3本の手がまるで“阿波踊り”をしている様にゆれて「イグニッションSW」に長い間(ほんの数秒だったかも)たどり着けませんでした。

※イグニッション(エンジンの火が消えるのを防ぐ点火SW)

幸い4つのエンジンの火は消えることなく動いていたし、客室の誰も怪我が無くて幸運でした。

マッキンレー山の高度は6190mで、航空気象の教科書では「山岳波」は山の高度の1.5倍ぐらいまで影響が出るといわれています。

その時はそれ以上の高度まで乱流が在ったのです。

もう一つの理由は、ジェット気流が予想以上に大きくマッキンレー山側に蛇行していたことでした。

冗談好きの米国人機長もしばらく静かにしていました。

長い長い沈黙が続いた後機長がようやく口を開くと、今までに経験したことのない「揺れ」だったと言っておりました。

米国などではマウンテンウエーブ(山岳派、上層風によってたまの後方に起こる乱流)によって揺れの起こり易い所や、報告の多い箇所には、航空路図に“印”が付けられています。(米国中西部山岳地帯に多い)

乗員が揺れ(タ―ブランス)を知る一番確実な方法は、前を飛んでいる飛行機の報告が有効で、この揺れの報告は強さも含めてパイロットに義務付けられています。

ジェットストリーム(季節変化のある強風帯、夜のラジオ放送ではない)の近辺は気流の乱れも大きく揺れの多いのは知られていますが、それは見ることは出来ず、レーダーにも映らないので慎重な天気図の解析が重要であることを改めて気づかされました。

1972年11月某日、DC8の機長

欧州から成田への便の、アンカレッジ⇒成田区間の乗務に就いた時の話です。

フライト前のブリーフィングでは「冬型の天気図に近づいてはいるが。ジェット気流は未だ今日の航路には近づいていない」という予想でした。

しかし、アンカレッジを出発して中間点を過ぎた頃、TAS(真対気速度)とGS(対地速度)が200ノット(360Km/h)以上違っているのに遭遇しました。

これは新幹線よりも速い風の中を飛んで居るのを表しています。

慌ててジェットストリームの強風帯を避けるため、管制に連絡して高度を下げました。
強風帯に入った時も、高度をもらって下げた時も揺れとは遭わずに幸運でした。

いつも空気の流れ(風)が雲のように見ることが出来ればこれ程楽なことはありません。
しかし、現実は目に見ることができないために揺れの予測が難しいため、雲の無い所でのCAT(晴天乱流)を予知出来ずに、多くの人に災難を負わせてしまっています。

どうしたら予測出来るか、防げるか、というのが今までの大事な研究課題ですし、今も続く課題です。

最近JAXAなどが精密な「空気のゆがみ」を検知するドップラーレーダーの実験で、30秒前の晴天乱流を捕らえた、とニュースになっていました。

予測を実運航に生かすには、もう少し時間の必要な状況かと思います。

第七章6−2に続く・・・

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