主観を排除することの大切さ

皆様こんにちは。
パイロット相談室、相談員の江田和正です。パイロット相談室では学習の分野でお悩みのパイロット志望者の方を対象とした相談を担当しております。主に学習方法や成績の伸ばし方についてお話しさせていただいておりますが、私大航空操縦科等への進学を考えている方対象の進路相談もさせていただいております。JAMBOが運営するPILOT専門進学塾・シアトルフライトアカデミーでは、学科指導の主任を務めさせて頂いております。
今後、このコラムにて学力の向上に役立ちそうな情報をシェアしていきますので、よろしくお願い致します。

今回は、私が最も大切にしていること、「主観を排除する」ことの大切さについてお話していこうと思います。

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人は経験したことより、経験していないことの方が多い

これは当然のことですね。

自分がどれだけたくさんの経験をしようとも、世の中の全てのことを経験することはできません。
自分が経験してきたことなんか、世の中の0.1%にも満たないでしょうし、全く同じ経験をしたとしてもその結果やその時抱いた感想は人それぞれです。

ですので、経験というのはそのまま他人に伝えても、その人にとって有益かどうかは分かりません。

例えば、私はノートをとることについて、小学生の頃自分よりとても綺麗にノートをとる同級生が自分よりテストの成績が悪いことを知り、ノートをとるのは意味がないんだと経験から学びました。でも、それを他人に勧めていたら有益どころか有害ですよね。何故なら、科学的にノートを取ることは概ね勉強の成果にポジティブな影響を与えるとされているからです。
私は運よくほとんど板書すらノートに書かなくてもそれなりの点数を取れていましたが、もしノートをしっかりとっていたらどうなったか?それが不明なうえ、本来とれる点数より下がっていたとしたらやはり他人に勧めるべきではないでしょう。

人間は現実を歪曲して都合の良いように解釈している

これをバイアスと言います。

最近、歴史歪曲や事実の歪曲(陰謀論)などで歪曲をいう言葉を目にすることが増えたかと思います。インターネットが発達した昨今、どんな分野でも真偽入り乱れた情報が氾濫しているためバイアスに囚われてしまう人は激増しています。

特に世の中の理解に関して気をつけないといけないバイアスが確証バイアス(Confirmation bias)です。

これは非常に強力なバイアスで、人種に関わらず発見されています。確証バイアスとは、言い換えるなら自分の信じたい情報を信じる、という傾向のことです。これについては総務省の啓発情報ページにもまとめられているので、参考にしてください。

偽・誤情報に関する啓発教育教材「インターネットとの向き合い方~ニセ・誤情報に騙されないために~」等の公表
https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01ryutsu02_02000340.html

なぜ確証バイアスが危険かというと、自分の信念に反するものは全て排除してしまう点です。反証があるからこそ進歩、発展、成長があるのに、すべて排除してしまうと現実から大きく外れ、停滞してしまいます。

また、反証を全て排除すればどんなものでも「完全な」ものが出来上がってしまいます。でもそれはその人の脳内の世界だけのこと。なるべく他の意見、データ、実験研究に目を向けようとしているのはこのためです。

バイアスはこの他にも100種類以上見つかっており、自分にはバイアスなどない!と考えること自体バイアスだらけの可能性が高いので十分お気をつけください。

どこでも意地悪な学習環境であることがほとんど

意地悪な環境とは、繰り返しのパターンがおこりずらく、即座のフィードバックが得られにくい学習環境を言います。対して親切な学習環境とは、範囲が限定的で、繰り返しのパターンが多く、即座のフィードバックが得られやすい学習環境を言います。

具体例で言えば、意地悪な学習環境に属するのは、人の感情、ビジネス、株価、教育などで、親切な学習環境に属するのは、学校のテスト、スポーツ、音楽、などでしょうね。これらの違いを分かりやすくまとめると、前者は経験だけでなんとかなるものではなく、後者は経験である程度はなんとかなるもの、という違いです。

本当にそうなのか更に深く考えてみますと、経験だけでビジネスが成功できるのなら、経験豊富な経営者であればどんなビジネスをやっても成功するでしょうが、実際はそうとも限りませんよね。昔の人気番組、マネーの虎に出演されていた敏腕社長たちもそのほとんどがその後ビジネスで失敗されています。
株も同じで、一回大儲けした人が次もまた大儲けできるかというとこれも難しい話です。もし経験を積めば大儲けできるようになるのなら、大儲けした人の判断に従えば全員儲かるはずですが、そういう話は聞いたことありません。

人の感情もそれと同じで、一見単純に見える「嘘」を見抜く力においても、どうやら経験だけでは学習できないようです。

警察官と嘘を見破る手段
https://journals.sagepub.com/doi/full/10.1177/1529100610390861

これを見てみると、嘘を見破るのが得意、というか本職の警察官であっても、相手の嘘を見破れる確率はコインを投げて表か裏かを当てる程度、つまりほぼ運くらいの確率でしか成功しないようです。

この研究によると、世界中の警察のマニュアルにも相手のまばたきの数や、目を逸らすなどの行為が嘘のヒントになると書いてあるそうなのですが、それらもどうやら嘘を見抜く決定的な手段にはならないとのことなのです。このように警察官が嘘を見破るのが上手くならない理由として重要なものに、即座のフィードバックが得られないことがあげられます。つまり、嘘をついている犯人がご親切に「正解!嘘でした!」や「残念!今のは本当のことを話しています!」などと答え合わせをしてくれるのはあり得ないからです。

生徒の学習に関してもこれと同じことが言えます。勉強の効果というのは、数日、数週間、あるいはもっと長いスパンの中でやっと効果が見えてきますが、通常それだけ日数が経過すると生徒は数えきれないほどの何らかの勉強をし、また教育的介入を受けますが、経験だけではそれらのうちいったいどれが結果との因果関係があり、どれが因果関係がないか不明です。そのため、ただ漫然と指導を経験しても効果的な学習が何かを学びとることは困難です。

対照群をもうけた実験が実施されれば良いのですが、倫理的に問題があるため現場で実施するのも難しいので、客観的なデータや研究を大いに参考にしながら実践していく、という態度が必要になるのです。

このことを補強する事実として、専門職資格をもった教師の方が生徒の深い理解度、問題解決力が高いという研究もあります。

専門職資格持ち教員について

https://www.emerald.com/insight/content/doi/10.1016/S1474-7863(07)11012-7/full/html

念のため言っておきますが、私は経験を否定しているわけではありません。しかし、経験(実践)→メタ的視点(抽象度を上げた視点)=実験、データなどからの考察→経験(実践)→∞の繰り返しが、専門性の高い熟練した指導者を作り上げていくのではないかと考えています。

意地悪な学習環境については最近ですと、デイビッド・エプスタインさんの「RANGE」という本でも取り上げられています。こちらの本は1万時間の法則でもグリットでもない、知識の幅こそが人生の成功確率を上げるという主張がなされている本でとても有益かと思います。経営学でも両利きの経営が利益をもたらすという考えが注目されているのと一致していますね。リンクを貼っておきますのでご参考までに。

最後に

いくつか主観を排除しないといけない理由を述べましたが、主観が全く意味がないわけではありません。

主観が次に思考するべきことのヒントをもたらしてくれる可能性があるからです。
つまり主観で「ノートって意味ないんじゃ?」と思ったら、自分で実験を行なってデータを示すか、そういう研究がないかどうか調べれば良いのです。(確証バイアスに気をつけながら・・・)

また、客観的なデータだけでは個別具体例に当てはめることが難しい場面が出てきます。そこで経験が活きることになります。つまり、実務上合わない部分は、基本原則を踏襲しつつアレンジを加えるのですね。例えば、この子は自立性が非常に高いから、宿題は最小限にして自分の計画にしたがって勉強を進めてきてもらおう、など。私は主観というはそのように利用しています。

つまりは、物事を判断する時、人間は主観に頼りがちなのでなるべくそれを排除する=一度立ち止まって自分自身を疑ってみるということです。
そうしたことの積み重ねが認識違いや小さなミスを減らしていき、結果として大きなミスを事前に予防することにつながります。パイロットにも必要なスキルだと思いますので、皆様も少しずつ意識してみてはいかがでしょうか。

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